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お店に入ると同時にテーブルの上に置かれた携帯。
……今日は持ってないと思ったのに……
ちょっと気になって膨れたところで、黒沢さんは気づかない。
気になるのは、誰かの連絡を待ってる風ではないその態度。
「ここのナンめちゃくちゃ美味しい」
「でしょ?よくランチに来るんですよ」
そんな何気ない会話をしながら、程よくお酒も入って。
「あ、そう言えばかずちゃんって、どんな仕事してるんですか?」
「え…?…」
一瞬、答えに詰まった。
そっか。
黒沢さんからしたら、かずは普通の女の子だもんね。
普通なら絶対に踏み込まれない領域に、簡単に入ってくるんだ。
「……モデル。……の、たまごかな?」
適当に誤魔化した。
職業さえも。
「ふーん。通りで背高くて綺麗なハズ」
ニコニコ笑う彼に覚えた罪悪感。
ツキンと痛む胸を笑顔で隠す。
食事を終えて外に出たのは、もう遅い時間で。
「あーお腹いっぱい」
外の冷たい空気を吸い込んで、はぁっと白い息を吐く。
「ははっ、かずちゃん食べ過ぎ」
優しい笑顔が、街灯と、店から漏れる明かりに照らされて。
ふっと目が合った瞬間。
意識したのはきっと、同時くらい。
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