お月さまの向こう側

9/14
前へ
/57ページ
次へ
  結局、送信ボタンは押さずに。 カバンに携帯を放り込んだ。 打った文章は、跡形もなく消えた。 見た時計は夜中を回って。 かずちゃんが消えた方向に走り出す。 走ったって歩いたって、本当は変わらないんだけど。 乗り込んだ電車はゆっくりと走って、だけど確実にキミの元に向かった。 送っても返ってくるエラーメール。 かけても繋がらない番号。 だけど消せないキミの名前。 もしかしたら家だって、引っ越してしまったかも知れない。 ………だったら会社に行ってやるし。 逃げられたら追いかけるなんて、どうして今まで気づかなかったんだろう? 降りる駅の名前が流れて、スピードが落ちてきた電車。 石田さんの住んでいたアパートが一瞬、窓から見える。 電気は、ついてない。  
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1614人が本棚に入れています
本棚に追加