1615人が本棚に入れています
本棚に追加
何があったかなんて聞かなかった。
メイクを落として、俺のスウェットを着たカメは、ただ黙って蹲って。
長めの裾に半分隠れたつま先を見つめてた。
「おれ、毛布持ってくる」
ソファとベッドどっちにする、と。
問いかければ、黙ってのろのろと頭を上げたカメと、視線がぶつかった。
その瞳は真っ直ぐに俺を見てるのに、なぜか違う場所を見つめてるような気がしたんだ。
「…………」
小さく口を開いたカメが、声にならない音を発して口をつぐんだ。
視線を落として、カーテンの閉まってる窓に目を向ける。
視線を追った先。
カーテンの隙間からは、東京の夜空が見えるだけだったけど。
「かず、お星さまになりたいな」
視線はずらしたまま、まるで独り言のように溢すから。
「うん」
意味は全く分かんなかったけど、カメの横顔に向かって促すように頷いた。
「月の光とか、ビルの光とか…紛れて、見えなくなっちゃえばいいのに」
上に手を伸ばして、何かを掴む真似をして。
「お月さまに頼んだら、かずも隠してくれないかな?」
こっちを向いて、悲しげに微笑んだ。
「そんなコト言ってると、月に連れてかれるよ」
ちょっと躊躇ったけど、隣に座ってポンポン、と頭を軽く撫でる。
甘えるように肩にもたれてきたカメを、両腕で抱きしめたら
「そーかもね」
なんて声が意外と心臓の近くで聞こえた。
「かぐや姫にも、王子さまは現れないし」
ね?、と見上げてきた顔が、触れるくらい近い場所にある。
真っ直ぐこっちを見る黒い瞳が綺麗。
だけど、そこからは何も読み取れない。
なんだか甘くなりそうな空気を、気づかないフリをした。
カメを女の子だって意識したのは、正直言ってはじめてかも知れない。
最初のコメントを投稿しよう!