お月さまの向こう側

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  何があったかなんて聞かなかった。 メイクを落として、俺のスウェットを着たカメは、ただ黙って蹲って。 長めの裾に半分隠れたつま先を見つめてた。 「おれ、毛布持ってくる」 ソファとベッドどっちにする、と。 問いかければ、黙ってのろのろと頭を上げたカメと、視線がぶつかった。 その瞳は真っ直ぐに俺を見てるのに、なぜか違う場所を見つめてるような気がしたんだ。 「…………」 小さく口を開いたカメが、声にならない音を発して口をつぐんだ。 視線を落として、カーテンの閉まってる窓に目を向ける。 視線を追った先。 カーテンの隙間からは、東京の夜空が見えるだけだったけど。 「かず、お星さまになりたいな」 視線はずらしたまま、まるで独り言のように溢すから。 「うん」 意味は全く分かんなかったけど、カメの横顔に向かって促すように頷いた。 「月の光とか、ビルの光とか…紛れて、見えなくなっちゃえばいいのに」 上に手を伸ばして、何かを掴む真似をして。 「お月さまに頼んだら、かずも隠してくれないかな?」 こっちを向いて、悲しげに微笑んだ。 「そんなコト言ってると、月に連れてかれるよ」 ちょっと躊躇ったけど、隣に座ってポンポン、と頭を軽く撫でる。 甘えるように肩にもたれてきたカメを、両腕で抱きしめたら 「そーかもね」 なんて声が意外と心臓の近くで聞こえた。 「かぐや姫にも、王子さまは現れないし」 ね?、と見上げてきた顔が、触れるくらい近い場所にある。 真っ直ぐこっちを見る黒い瞳が綺麗。 だけど、そこからは何も読み取れない。 なんだか甘くなりそうな空気を、気づかないフリをした。 カメを女の子だって意識したのは、正直言ってはじめてかも知れない。  
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