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木々が生い茂る暗闇の中。女性は息を切らせ、山の中を走っていた。
20歳前後と見られる若い女性。靴も履かず、登山をするにはほど遠いくらいに質素な服装であり、家の中で着るようなラフな格好だ。
暗い闇と同化するように真っ黒な髪を振り乱し、必死な形相で走る女。
時間は深夜0時を少し越えたところ。
こんな時間に山の中を好きこのんで走る者はまずいないだろう。
なら彼女は何故、一人こんな山の中を走っているのか。
頭がおかしいわけでもなく、気が狂ったわけでもない。
いるのだ。
彼女の走る数メートル後ろに、数えきれないほどのたくさんの妖怪達が。
かれこれ五~六分は走ったであろう彼女の足は、地面に落ちている木や石を踏んでボロボロだ。
しかし痛みなど気にしている暇はない。
捕まればそれは死を意味しているから。
逃げても逃げても、しつこく追いかけてくる、禍々(まがまが)しき妖怪達。
女性の体力も限界に達し、とうとう足がもつれて転んでしまった。
すぐに立ち上がろうとするが、足をひねったらしく、激痛で立ち上がれない。
声にならない声を出しながら、それでも必死に這って逃げようとする女性。
その目の前に、二本の大きく太い足が現れた。毛だらけの大木のような足。怯えた顔の女性が見上げた先に、スッと大きな顔が降りてくる。
真っ赤な色の肌。血走らせた目。青紫色の唇の両脇から覗かせている牙。ありえないことに頭には2本の角がある。
鬼と呼ばれているモノだ。
『い、い、いやぁぁぁっ!!』
彼女の恐怖に震える声が聞こえる中、恐ろしい顔の赤鬼が丸太のように太い腕を上げた。その手には同じくらいに太く、そしてトゲの付いた棒が……。
それが瞬きもしないうちに一気に降り下ろされた。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!』
静かな森に痛々しい鈍い音と、女性の狂ったような断末魔が響いた。
モウ少シ……モウ少シデ……ハーッハッハッハッハッハー。
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