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ジークがグレンツェンに騎乗しようとしたその時――……
妙な気配を感じて、ジークは通って来た抜け道を一瞥した。
「待って、わたくしよ」
鈴の音のような少女の声が響く。
白銀の髪を靡かせ抜け道から出てきたのは、第二王女であるクリスティアーネと、六大選帝侯のひとりであるマクシミリアンだった。
「……クリスティアーネ様」
驚きの色を隠せないジークとアリスの元へクリスティアーネはドレスの裾を摘んで駆け寄った。
「―――これを、お持ちになって」
そう言ってクリスティアーネはジークに小さな革袋を手渡す。
「これは……?」
「きっとあなたを助けてくれるわ」
月の姫はジークをひたと見据えると、跪き懇願した。
「お願いです、ジーク。お姉様を助けて」
鳶色の瞳は濡れていた。
一国の姫が、臣下に跪くなど通常では考えられないことである。
それ程までに、彼女の心は追い詰められていた。
……―――この世の誰よりも大切な姉が、恐ろしい魔女に殺されるかもしれない。
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