短編 ひとつめ

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電車とバスを乗り継いで二、三時間。 目の前に広がる風景は、なるほど確かに観光地に足る絶景であった。 福井県、東尋坊。 ここの断崖は観光地として多くの人が訪れることの他に別の意味でも有名だ。 ここは、自殺の名所でもあるのだ。 実際にこの断崖から身を投げれば容易く死ねるだろう。 母なる海に抱かれて終える最後も、そう悪くないように思える。 冴えない自分の選択にしては随分良い場所を選んだものだ。 あと一歩。 足を踏み出せば海に落ちるところまで来た。 この一歩を踏み出せれば十年間思い悩んだ僕は報われるのだろうか。 下を見つめたまま、立ち止まる。 ふと頭をよぎったのは、十年前の日々。 懐かしくもある。 が、それ以上に悲しかった。 悔しかった。 なんの努力も、なんの行動も起こさずに為されるがままの自分がふがいなかった。 まぁいい。 もう死ぬ一歩手前なのだ。 思い出に浸るのも悪くない。 例えそれは僕の人生で最も忘れたい過去であっても。
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