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大きく響く、椅子を片付ける音に、「だってー」という、拗ねた河村くんの声が響く。
「やぁーっと終わったんだもん」
「ちゃんと解けたのか?」
「もっち!!早く採点してよ、トートちゃん♪」
「‥‥お前、死にてぇのか?」
「!!うっそごめん冗談だって!!」
「ったく餓鬼が‥‥」
私は、顔が上げられなかった。
先生の気怠げな声の調子はいつもと変わらないけど、少しだけ、いつもより楽しそうな響きだったから。
仕方ないのかもしれない。
河村くんは、先生が始めて受け持った生徒らしいから。
でも、それでも。
先生の名前を、『冬斗』って名前を、軽く呼べる彼が羨ましくて、悔しくて。
今二人を見たら、確実に恨めしげな顔になってしまうって、思ったから。
だから私は、最後まで顔を上げず。
「ほい、合格。ギリギリだけどな」
「やった!!たっちーお疲れっ」
「だから大人をナメんな、このクソ餓鬼が」
―――――二人の親しげな会話を聞いて、唇を噛み締めるだけだった。
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