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そこで二人の会話はいったん終わって、足音が響く。
視線をあげると、先生はまた顔を伏せて書類を眺め。河村くんは、荷物を片付けて帰る支度をしていた。
一通り荷物を纏め終えたのか、顔を上げた瞬間、「、」目が、合う。
‥‥思わず、私は目を逸らしてしまって。
だけど、河村くんはニカッという効果音がぴったり来そうな微笑みを、見せてくれた。
「たっちー、じゃ、俺帰るねっ」
「おー、ちゃんと勉強しろよ」
「そっちもちゃんと仕事しろよー煙草ふかしてばっかないでさ。‥‥櫻井さんも、バイバイ!!」
「‥‥え、」
リュックを背負い、後ろのドアを開ける。
立見先生は軽く手を振って、その直後、一緒に呼ばれた自分の名前に反応できなかった。
慌てて振り返ると、ニコニコしたまま、私を見つめている河村くん。
‥‥戸惑ったけどとりあえず、手を振って。
「‥‥うん、またね」
「じゃあねっ!!」
それ以上に大きく彼は手を振って、暗い廊下を走り抜けていった。
そんなに防音設備の出来ていない塾中に響くんじゃないかってくらい、大きな足音で、駆けていく。
ぼんやり、見えないはずの彼の後ろ姿を追っていたら、不意に隣の席の、椅子を引く音。
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