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『高校までバスケやってたんだよ。結構上手かったんだぜ?』
『‥‥はぁ』
『お前、何か部活やってねぇの?』
『‥‥今は特に。前は、バレーやってました』
『へぇ、意外』
即座に切り返される言葉に、返事に戸惑った。
なんて答えたらいいものなのか、あまり人と仲良くなるのが得意じゃない私は、分からなくて。
黙って俯いたら、数秒経って、困ったようなため息が聞こえた。
理由が分からなくて、顔を上げて首を傾げる。
先生は、静かに苦笑していた。
柔らかに緩む目元のせいか、その顔は、ひどく優しく映り。
心臓が、大きく音を立てた。
『‥‥や、悪ぃ。何言ったらいいか分かんねぇんだよ』
『‥‥え?』
『俺も今年入った組でさ、お前で三人目なんだよ。受け持ちの生徒。
‥‥ただ前二人結構なつっこい感じの男子だったから、女子ってどう話したらいいか全然分かんなくてな』
だから、つまんなかったら悪い。そう言われて、慌てて首を振った。
決してつまらない訳じゃ無くて、ただ、反応に少し困ってしまっただけ。
自分も塾は初めてで、年上の男性と関わるのも初めてだから、緊張したのだ。
たどたどしくそう口にすると、先生は少し驚きながら、安心したように頬を緩めた。
‥‥後後聞いたら、これらは全て見事な嘘で。
完璧に騙された自分に、頭が痛くなった。
だけど当時はその笑顔に胸がドキドキして、ツルリと口を滑らせて色々先生を褒めることすらしてしまった。
‥‥今現在、それをネタにからかわれたりもされちゃっているし。
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