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養母、琥蓮(コリェン)にはまだ挨拶をしていないのだ。
行くか行かずか迷い、行かないのも失礼だと自分を叱責し、琥蓮の部屋へ向かった。
「失礼。義母上(ハハウエ)にお目通りをしたいのだが」
琥蓮への取り次ぎを侍女に頼んだ。
しばらくすると、どうぞと中に招かれ、客間へと通された。
「いらっしゃいまし、篶歌殿」
「義母上、明日出発が決まりましたゆえ、挨拶に参りました」
ふんわりとした髪を横に結い上げ、鏡台の前に腰かける琥蓮に頭を下げる。
琥蓮は無表情のまま、鏡を見つめると、ちらりと篶歌に視線を向ける。
「道中、お気をつけなさいませ」
それだけ言うと、鏡に視線を戻す。
これ以上話は必要ない、とばかりに琥蓮は篶歌に目を向けない。篶歌は一礼して踵を返して部屋を出ようとした。
「お待ちなさい」
直後、凛とした琥蓮(コリェン)の声で篶歌は立ち止まった。衣擦れの音とともに、琥蓮が篶歌に近づいてきた。そっと、細い華奢な指が篶歌の左手に触れると、ひやりと冷たい感触を感じた。
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