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「ありがとう」
篶歌は微笑み、花を受けとると、そっと小さな幼子達の手を包み、二人の額に唇をつける。
「元気でね」
そう言うと手を離し、名残惜しそうに見つめる二人を背に、篶歌は船へ乗り込んだ。
「篶歌様、こちらです」
船に乗ると、出港の合図が出され、ゆっくりと波打つ水を裂いて進む。
朱麗に招かれ、篶歌は風に髪を靡かせながら、斗玻の都、手流(テルゥ)を見つめる。
ふと、ぽたりと篶歌の頬に涙が流れる。
幼い頃から馴染んできた国。
その国にはもう戻れないのだと。そう思うと、急に涙が込み上げてきたのだ。
「……篶歌様」
「……すまない。はしたない所を見せたな」
「何をおっしゃいます。私は、はしたないなど思っておりません」
いつも通り、淡々と。しかし、温かみを込めて、朱麗は言った。
篶歌は小さく笑うと、朱麗の白い手を握った。
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