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市内までの距離は普通に走れば10分ちょいだが、道はかなり混雑していた。
「……2時に間に合いそうもないですね」
卓司は首だけを後部座席の慶子の方に向ける。
「大丈夫ですよ、実家に戻るだけですから、フフフフッ……」
慶子は小さな笑い声を上げるが、すぐに言葉を続ける。
「それよりも謝礼を頂いた上にご馳走にもなっちゃって、何だか申し訳ないです」
後ろを見たまま話す事は辛かったので首を元に戻し混雑している道路を見る。
「お気になさらずに……あっ、先程、ご主人は立石さんの車で事故ったと仰ってましたが、立石さんの車を借りて運転する事はよくあったのですか」
「ええ、ありました」
「同乗された事は?」
「ありません。一度は乗ってみたいと思いましたけどね」
中沢夫妻が関心を寄せた車に逆に興味が沸く。
「どんな車なんですか」
「フェラーリです」
「えっ、フェラーリなんですか」
如何に車に興味がない卓司といえども、その値段や性能の凄さは知っている。だが、ここで、ふと、1つの疑問が沸き上がる……如何に友人とはいえ車が壊されて笑って済ます事は考えにくい。しかも、それがフェラーリで、その修理代は相当掛かるはずだから尚の事である。それに夫の借金は妻が相続するのが原則だから……
「あの~~っ、立石さんから車の修理代の請求はありましたか」
「いいえ、ありませんでした」
強い口調である。ないというのは、金持ちの為せる業か、あるいは中沢が死んだから止めたのか、はたまた保険で賄えたから充分だと思ったのか。ただ、どれにしろ、中沢の事故と事故死が切っ掛けで立石が車を持たなくなった事は紛れもない事実であった。
「……話は変わりますが、慶子さんは立石さんの別荘に行かれた事は?」
「2度程あります。夫に連れられて子供達と一緒に行きました。素敵な別荘ですよね。あんな所に住んでみたいと思いましたよ」
慶子がそう声を張り上げたところで車は先程の町工場の通りに入った。
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