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それから2時間経つも猫がスルメを食べ切ったという報告は入らず、結果は明日にでも知らせるという宮井の言葉を受けて卓司と尚也は一足先に小名浜署を出る。
「腹減っただろう?」
「もうかなり」
「ははははっ、そうか」
間もなく午後7時、日は沈み対向車のない通りに映し出されたヘッドライトのオレンジ色がいつもより鮮明に感じられた。
「……真っ直ぐ、市内で良いんですか」
「うん、良いよ。それにしても長かったなあ」
卓司が何気なくそうポツリと呟く。尚也には事件解決までが長かったのか、それとも今日1日が長かったのか、その真意を図り兼ねたが、それを尋ねるのは何故か愚かに思えた。ただ、どうしても聞いておきたい事があった。
「……先生」
「ふわぁ~~っ……うん !?」
大きな欠伸をした後、卓司は軽い調子で応える。
「こちらに来る時に、指紋が出なければ別な方法を使うって言ってましたが、それって……」
尚也も自分なりに考えてみたのだが、どう考えても思いつかなかったのである。
「あ~~っ、あれか……」
卓司は思い出したように少し大きな声を上げる。
「余り使いたくないとも……」
「使いたくはないけど、背に腹は代えられないから……そうだなあ、例えば、家の中に犯行に使われた凶器が隠されているのは確実なんだが、その凶器がどうしても見つからない。尚也君ならどうする?」
「えっ、急にそう言われても」
「じゃあさ、この場合、凶器の在処(ありか)を知ってるのは誰?」
「そりゃあ、勿論、犯……あっ、そうか、犯人に聞くのか !!」
「はははっ、聞いて素直に教えてくれるなら誰も苦労はしないさ」
笑われた事で『カーッ』と頭に血が上る。
「で、ですよね。そ、そうすると……」
「犯人を騙して凶器の隠し場所を教えてもらう」
「成る程。それなら間違いなく凶器は見つかります」
「そういう事」
卓司はそれっ切り黙ってしまい具体的に落合をどう騙すかについては話さなかった。だが、余り使いたくないと言う卓司の気持ちは痛い程理解できた。
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