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〔5〕
次の日、卓司が午前中に事務所に出ると直ぐに『猫がスルメを食べ切って、裸の鍵だけが床に残った』という宮井からの電話が入る。食べ切ったのは殆ど真夜中で完全に寝不足だと笑ってもいた。そして、これから落合、静代、扇寿司の飯岡夫妻に会うという言葉を最後に宮井との会話は終了する。ただ、その後、宮井からの連絡はなくなって、夏本番の8月となる。
8月に入って3日目の午後、卓司に衝撃的なニュースが2つ飛び込んで来る。まず1つ目は夏の甲子園大会の5日目第2試合で、何と母校が昨年の覇者である大阪代表校とぶつかる事になってしまったというもの。そして、もう1つのニュースは外回りから事務所に戻って知る事となる。
美弥から渡された冷たい麦茶で一息吐きながら母校の勝敗予想で尚也や美弥と盛り上がっている所へ電話が鳴り、応対に出た美弥の宮井からだという言葉に目の前の受話器を即座に掴む。
「はい、紺野です」
『お久しぶりです』
「いやぁ、ホント、10日ぶりですか」
久しぶりに聞く宮井の声であったが、とても元気そうであった。
『スミマセン、色々と立て込んでおりまして……』
「いいえ、それより……」
『はい、本日、午後 4時42分、落合大樹を立石和樹に対する殺人の容疑で通常逮捕致しました』
通常逮捕とは被疑者に逮捕状を示して逮捕する事で、逮捕状を示さない逮捕が現行犯逮捕や緊急逮捕である。
「えっ、逮捕したのですか」
直ぐに左手の壁時計を見る。針は丁度午後5時を指し示していた。ただ、言葉では驚いていたものの頭の中は意外と冷静であった。
「…(という事は石に付着していた指紋は落合大樹のものと一致した事になるが……)」
一方の宮井は卓司の驚きを軽く受け流して話を続ける。それによれば、先週の水曜日にいわきに戻った落合に会って立石の別荘へは一度も行ってないと主張するのを確認し、そして、本日の午前中に科捜研より指紋の照合の検査結果が届いたのだと言う。
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