第2章。『概況』

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外の雨はすっかり上がり黒い雲もどこかに消え去っていた。玄関先で園子と朋美に見送られて2人は車に乗り込む。 「……先生、浦賀琴音さんはどうしますか」 「今日は遅いからまた出直そう」 「分かりました」 シートベルトを締め、尚也がエンジンを掛けると車内の計器はグリーンに彩られ、ヘッドライトが濡れた路面を映し出す。そして、低く重いエンジン音が静寂を破って後、4つのタイヤがゆっくりと回転を始める。 「……今日は朝からだったから疲れただろう」 「いえ、大丈夫です。それより朋美さんは絶対犯人じゃないですよね」 「どうして?」 「だって、あんな清純そうな子が人を殺すはずありませんよ」 「惚れたか」 「ち、違いますよ、からかわないで下さい」 「ははははっ、悪い悪い。でも、美人だったな」 「まあ、美人でしたけど」 背後の冬木家は闇と、そして、他の家と同化し、どの家かはもう分からなくなった。 「なあ、尚也君……」 「何ですか」 「普通、犯人が密室にする理由って何だと思う?」 「どうしたんですか、急に?」 「うん、ちょっとな」 「そうですねぇ、普通は捕まらない為だと思います」 「だよな。密室は犯人にとって完璧なアリバイと一緒、そこに存在しないと同じだからね」 「ですよね」 「でもなあ、今回はそれとは違う気がするんだよ」 「えっ、本当ですか!?」 「いや、ただ何となくそんな気が……」 卓司はそう言い掛けて腕組みをして黙る。闇にヘッドライトが克明な軌跡を残し、エンジンの軽快な音が耳に届くだけであった。 「あっ、そうだ。先生、立石さんの服装について尋ねてましたが、あれは何か意味があるのですか」 「うん!? あれか、あれはね、立石が外出するのか、あるいは来客があるのか、そして……まあ、もう1つは可能性が低いんだけど……その辺の事を確かめる為……」 卓司の答えは少し抽象的で尚也にはよく理解できなかった。 「それにしても腹減ったなあ。どうだ、高速に乗る前にその辺でラーメンでも食べるか」 「あっ、大賛成です」 狭い道路を右折し暫らく直進すれば、やがて無数のヘッドライトが行き交う一般道に到る。
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