第3章。『両雄』

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〔1〕 カーテンレールを走る音と同時に窓側が明るくなって部屋は一瞬にして陰から陽に変わる。 「あらっ、一雨来るかも」 声のする方に重たい頭を向ければ瑠璃が白いジャッケットにスカート姿で外を見ている。 「……ふぁ~~っ……」 「あっ、起きた?」 卓司の欠伸で振り返った瑠璃は化粧も終えて出掛ける態勢は整っていた。そして、近づいて来て卓司が寝ているベッドの頭側に立つ。 「……今、何時?」 「8時半……あたしはもう出るね。朝食は用意してあるから」 瑠璃の会社は卓司の事務所より30分程就業開始時間が早い。 「……う~~っ、胃がむかつく」 「大丈夫?」 右手で胃の辺りを押さえている卓司の顔を身を屈めて瑠璃が心配そうに覗き込む。 「……昨日のラーメンにチャーハン大盛りが効いている。昔は夜遅く食べても平気だったのに……」 「卓司さんももう良い年なんだから……テーブルの上に胃薬を出しておくね」 「ありがとう。帰りは?」 「夜の7時頃。卓司さんは?」 「俺もそのくらいかな」 「そう。じゃあ、行って来るね」 「気を付けて」 寝室を出る瑠璃を目で追った後、体を反転させ、うつ伏せになって枕に顔を押しつける。 体調の悪い体で事務所の扉を開けると美弥は、アジの干物を手にして尚也と何かを話していた。 「おはよう」 「おはようございます」「先生、おはようございます」 美弥は右手にある、その干物をユラユラさせて卓司を見ながら笑っている。 「今日も天気が悪いね」 土産物の話を避けた方が賢明だろうと話を天気に持って行く。天気の話題が頻繁に上るのは日本とイギリスぐらいで、大抵の外国人は日本の天気予報の詳細さに驚くらしい。卓司は美弥の背後を通って自分のデスクの上にカバンを置いて椅子に腰を沈める。 「美弥ちゃん、冷たいの頂戴」 「良いですけど、どうしたんですか」 「胸焼け」 「美味しい物ばかり食べてるからですよ」 『ニッ』と白い歯を見せ、立ち上がった美弥は冷蔵庫を開け、中からペットボトルのお茶を取り出してグラスに注ぐ。
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