3.ヴァイオリニストというもの

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翌日はシドニーでリハーサルなど、打ち合わせが行われた。ルドがいないので、全て自分でこなさないといけない。 演奏の打ち合わせ以外の事、主催者との挨拶などの社交的な事が特にストレスだ。 天気の話、食べ物の話…。どうでも良い。カンガルーを食べたか?オーストラリアでも僕はハンバーガーが主食だ。 でも、ちゃんとしないといけない。これからも呼んでもらえるように、良い印象を持ってもらわないと…。 これからも…?。 これからもこんな生活が続くのだろうか。 世界で活躍する演奏家たちは口を揃えて言う。 『生まれ変わっても、二度と演奏家だけは嫌だ。結婚して子供が生まれても、自分の知らないうちに子供はどんどん成長していく。大切な時に大切な場所にいる事ができないって、不幸な事だよ。』 その意味が今になってよくわかる。 ん?今になって? 何を言ってるんだ。 身近にそんな“不幸な人間”がいたじゃないか。 国際線パイロットだった父も、大切な時にいつも家にいなかった。 「遺伝だ。」 ちょっと笑えた。 僕は時間を見計らって、エリに電話をした。 電源は入ってるのに出ない。 僕はメールを打った。 「明日の夜11時に電話する。」 もうダメだと思う。でも中途半端に終わるのは嫌だった。
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