1555人が本棚に入れています
本棚に追加
ニューヨークのJFK空港に降り立った僕は、あまりの寒さに思わずジャンパーのチャックを上まで上げた。シドニーは夏だったのに、ニューヨークは厳寒だ。なんといっても今は2月なのだから。
「おかえり!」
ポンと肩を叩かれ、振り向くとルドがいた。
「風邪引くぞ。」
そういうと、彼は手に持っていたコートを僕に着せ、マフラーを巻き、手袋をはめてくれた。一気に真冬のニューヨーク仕様だ。
「ただいま。」
ルドに抱きつく。
暖かい抱擁に、帰ってきたんだと実感する。
「大丈夫だったか?迷子にならなかったか?」
彼の質問に、うんうん頷く。
「シドニーじゃ良い演奏をしたらしいな。G社のシドニー支社長が絶賛だったぞ。」
「うん。」
「何でも、男の哀愁が漂っていたらしい。新境地だな。シドニー支社にディスクを頼んでるから、届くのが楽しみだ。」
「うん。」
「…。」
「…。」
「いつまで抱きついてるんだ?」
「…。」
「いい加減、離れろ!」
「やだ。」
「またホモ説が流れるぞ。こら。」
「やだ、やだ。」
「おいっ!」
「やだー。」
僕は意地になって彼に抱きつく。
迎えに来てくれて、本当に嬉しかったんだ。
きっと母も妹も留守の、無人のあの家に一人で帰るなんて、今の僕には寂しすぎるから…。
僕はツンと出てきた鼻水を、彼のマフラーに押し付けた。
最初のコメントを投稿しよう!