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「やばいな」
それを見ながら悠一が言った。その顔には焦りの色が見える。
「見りゃ分かる。ってなんで攻撃やめてんだよ」
真の言う通り、悠一は雷撃を放つのをやめていた。
「だからやばいってんだ。さっきから雷が出ない」
「え?」
「え? じゃねぇよ。原因は多分あれだ」
悠一が指差す先には、光の中心にある青年。
「あれは、多分、詠唱だな。ゲームでよくみる」
「じゃぁ、今隙だらけか?」
「多分な。けど、俺の攻撃が消えるっていうのはどうも腑に落ちんが」
「ゲーム論でいくとMP切れだろ」
「いや、そんなに無茶し――」
「後で聞く。チャンスは今だけ――」
真は青年のほうに走りながら叫んだが、その言葉は目の前の目も眩むような光によって遮られた。
「うわっ」
真は弾かれるように飛ばされ、もとの位置に戻った。
「くるか?」
その横で悠一は身構えたが、
「?」
何も起こらない。大きな魔法陣は大きく広がり、円周部分のみを残し消えた。そこには模様がキラキラと揺れている。
「っちくしょう、なんだ今のは」
真は立ち上がり、もう一度走り出そうとするが、悠一に掴まれ、立ち止まった。
「なんだ?」
「見るからに怪しいだろ。これ」
悠一は言い、足元の小石を拾い、綺麗なフォームで青年に向けそれを投げた。
まっすぐ進んでいた小石は、黄色っぽく光る円の円周部にさしかかったところで、突然上方からの雷によって粉々に砕け散った。
「やっぱりか」
悠一は黄色く光るそれを見ながら言った。真は、悠一がさっき止めなかったら、などと考え、身震いした。
「やっかいだな」
悠一がそう言ったときには既に青年は新たな詠唱に入っていた。再び魔法陣が展開される。
「隙はなくなった、か」
真は悠一の後をつぐようにいった。悠一の雷は不発、直接叩くのも不可能。もはや万事休すである。
悠一は、敵をじっと見ながら、ふと思い付いたように、目を閉じた。
その隣で真は、悠一の足元から、強い光を放つ魔法陣が現れるのを見た。
「おい」
「雷雲よ、その根の如く伸びる幾条もの形無き太刀をもって、敵に刹那の抱擁を」
真をまるで無視し、悠一は言葉を紡ぐ。青年が紡いだ言葉とは違う、全くの別物。
「ヴォルト・プラント」
悠一が呟くと、魔法陣が今までにないほどの光を放った。
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