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真は頷きながらまた質問を重ねる。 「そこまでは分かった。けど、リスクがデカすぎるだろ。もしかしたら、なんてレベルじゃなく、俺達が死ぬ可能性は結構高いぜ」 「それも分かってるさ。もしホントにやばかったら、全力で逃げる。完全に解決出来なくても、さっき言ったけど、しようとする過程でも十分意味があるんだぜ」 真が何か反論を考えていると、それを口にする前に悠一は、 「それにな、真」 改めて、といった口調。真が目を向けると、そこにはいつもの表情をたたえた悠一の姿があった。 「これを言うと『なんだそれ』とか言われそうなんだが……」 「なんだ、言ってみろよ」 「いいか、最も冷静で現実的な考え方をしろよ?」 そこまで言って悠一は間を置き、何故か指を一本立て、 「普通に考えて、夢だろ、これ」 「なんだそれ」 真の反応に悠一は「ほらな」と笑い、 「言った通りさ。さっきの理屈云々は置いといて。それが一番現実的。夢ってのは、醒めてから後悔すっからな。楽しんだもん勝ちだぜ? 俺が結構前に見た夢なんかな、そりゃ――」 「お前の夢の話は聞いてねぇよ」 真が悠一の言葉を遮る。二人とも、自分達がいつもの調子を取り戻しつつあることを感じていた。 「とりあえず悠一の言い分は分かったから。じゃあ行くぞ。こんなとこでぐだぐだ話してる時間もないだろ」 そうと決まれば、二人は情報を得るために改めて歩を進める。 女性らしい人がさらわれたらしい。二人はそれを、観客席にいたおじさんから聞いた。その人はかろうじてそれを目撃していたのだが、息子がいるため追うことが出来なかったのだという。おじさんは隣で不安げな顔をする小さな子供を指差した。 観客席のどちらかと言うと上部にいたそのおじさんは、おそらくパニックに巻き込まれるよりも冷静に、動かずにいることが最善だと踏んだのだろう。傍らの息子と、通路で押し合う人々を見ると、それが正解であっただろうことが一目で分かる。
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