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「そうですか。他にそれを見たという人は?」
「さすがにそこまでは分からんよ」
真が尋ねると、おじさんは苦笑いをつくった。続いて悠一が口を開き、
「その影、どっちに行きました?」
「多分あっちだね」
おじさんが指差す方を見、二人は顔を見合わせ頷きあい、
「ありがとうございました。僕ら、いってきます」
声を揃え、おじさんに頭を下げると方向転換。
人混みなんておかまいなし。全速力で走りだした。
「誘拐、か。対人のパターンだなな」
悠一がボソリと呟く。
「でもさ、悠一。人がさらわれたとなりゃ、多分見捨ててリタイア、なんてできねぇぜ、俺。それが普通ってもんだ」
「あぁ。だろうな。それが普通だ。率直に言うところがまたお前らしい。自分も少しは勘定に入れろっての。さっき死ぬかもって言ってたのはどこのどいつだよ。……だが、ホント、死んだら意味がない。危なかったら、うまいこと被害者を掠め取って逃げる。全力でな」
「あぁ」
真の視線は、ただ真っ直ぐに正面を向いていた。それを見て悠一はクスリと笑い、
「一回スイッチ入るとすげぇな、お前。さっき色々言ってきたときとはえらい違いだ」
そんな会話をしながらも、二人は人込みの間をスルリスルリとかい潜り、前へ進んでいく。
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