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少女は何事か理解できていないようだった。ぼーっとしたまま下を見、霧の立ち込める崖を見、逆側の岩壁を見、自分を担ぐ何者かを見てやっと、
「キャァァァァ!」
叫び声を上げた。二人組の男はそれに驚き一瞬、足を止めた。それを真は見逃さず、二人を取り押さえにかかろうとした。誘拐犯には見たところ、大した力があるとは思えない。もしだめなら、少女だけ奪って逃げればいい。
――のだが
「?!」
突然、真の目に光が飛び込んできた。それがなんであるかを確認するまもなく、
「ぐっ」
強い衝撃。真は自分の周りの空気が自分を押し潰さんとしているかのような衝撃を受け、一瞬意識が飛びかけた。
光と衝撃から解放された真は、宙に放り出されていた。平衡感覚が戻ってくる。寒気とともに下をみると、
「うそ……だろ……」
最悪の予感が的中していた。さっきまでいた道は、手の届かないところにあり、眼下には、底の見えない白い霧が広がっていた。
「あぁっ!」
どこからか誰かが驚くような声がする。女の人の声みたいだ。そういえば、さっきの少女はどうなったんだろうか。朦朧とした意識の中考える真の体は今にも落下を始めそうだった。
「もうだめか」
真は静かに目をとじた。と、腰の辺りに何かがぶつかる衝撃と、重量感を感じた。目を開けて見ると、
「えっ?」
さっき自分が助けようとしていた少女が自分に飛び付き、鳩尾辺りに顔をうずめていた。
「えぇっ?」
訳が分からない。状況が飲み込めないまま、重りを加えた真の体は落下を始めた。
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