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「……きにお礼を言ったほうが、いやでも、謝るのが先かなぁ」
傍らに声が聞こえる。真は目を覚ました。意識は未だ朦朧としている。
「んっ……」
上体を起こそうとするが、体が重い。真は回らない頭から必死に記憶を探る。崖から落ちて――
「あっ、目、さめたんですね!よかったぁ~。えっと、あの、大丈夫ですか?」
横から声がした。そうだ、この少女を助けようとしていたんだ。真は徐々に思い出す。
「えっ、あぁ大丈夫だよ」
真は答え、立ち上がろうとするが、少女に止められた。
「あっ、あんまり動かないでください。一応、治癒はしましたが、一応なので」
少女は心配そうな顔をして言った。さらりと長く真っすぐな金色の髪が揺れる。とても整った目鼻立ちをした少女だった。長いまつげに縁取られたライトブルーの瞳は少し潤み、薄い桃色の唇が不安げな表情をつくっている。
「あぁ、ありがとう」
真は上体だけを起こし、膝を伸ばして座る形になった。
「ほんとに、ごめんなさい。突然だったから、慌てちゃって……それで、だから加減が効かなくて、あなたも巻き込んじゃって……ごめんなさい」
何度も謝り、今にも泣きだしそうな少女の姿にいよいよ耐え切れなくなった真は、慌てて、
「全然謝ることないって。このとおり無事だし、君も助かったんだから」
笑顔で言った。まだ頭は重いままだったが。
それを聞いて少女はやっと少し笑顔になった。
「優しいんですね。今回は、本当にありがとうごさいました。助けていだだいて」
潤んだ目を擦る。真には、その仕種のひとつひとつが優雅に見えた。
「いやいや、実際に俺……ぃや、僕が助けたわけじゃないし、ただ、あてもなく追ってた、みたいな」
その少女の雰囲気につられてか、一人称を僕に変えた真を見て、「普通に話してくれて結構ですよ」と笑ってから、
「それでも、ありがたいですよ。実際、あなたが追ってきてくれてなければ、どうなっていたか分からないですし。正義感があるのですね、一人でこんなところまで追ってくるなんて」
「えっ、いや――」
言いかけて、真は思い出す。悠一はどうなったのだろうか。この様子から見て、こっちが本物だ。偽物の方どうなったのだろうか。悠一に限って、心配は無用だと思うが。
「――もう一人いたんだけど、途中で分かれたんだ。偽物のほうを追っていったみたいだ」
考えても仕方ない、と真は端的に述べた。
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