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ノアルは「なるほど~」とうなずいて、
「そうですか。エールさんにも後でお礼言わなければなりませんね」
「そうだな。あの時の判断はホントにすごかったと思うよ。それがなければ追いかけられなかったし」
真はそれを肯定しつつ、まだ言いたいことが多くあった。
「それにしても、ノアルも強いんだな。よくは分からないけど、さっきの魔法が相当強いってことぐらいは分かった」
ノアルは恥ずかしげにうつむき、
「ホント、すみませんでした。普段は自分で抑えてるんですが……」
また謝らせてしまった。と反省しながら真は、
「ノアルも大会出たらよかったのに。優勝できたかも」
と思ったことをそのまま言った。するとノアルは首を横にぶんぶん振り、
「そんなことないですよ。実際、今日エールさんも制御かけて闘ってましたし、あんまり目立ちすぎるのもあれじゃないですか」
「そうか……ってエールさん力抑えてたの? あれで?」
「はい。それでもエールさんに敵う人はなかなかいないのですよ」
「はぁ~……」
なんて人だ。真は改めて驚嘆の念を抱いた。
話をしているうちに、霧が少し薄くなった気がした。それでもまだ異常なほど濃いのだが。
「そういえば、崖から落ちたのに無事なのは、魔法か何か?」
真は新たな疑問を口にした。魔法があるなら、この状況を何とかできるのでは、と考えたのだ。
「はい。一気に力を使ってしまっていたし、なにより慌てていたので、うまくできませんでしたが、一応、浮遊の魔法を」
ノアルはもじもじと答えた。真はその気配を察知し、「謝らなくていいから」と釘をさし、
「それで、魔法で霧をどうにかすることはできないの?」
「聞いた話だと、ここの霧には何か不思議な力が宿っていて、魔法を弱めたり、打ち消したりするそうです。今思えば浮遊の魔法も弱まってた気がしますし」
「なるほどな。霧を払うには結構な力が必要、か」
「そのようです。先程一度試したんですが、確かに効果がほとんどありませんでした」
いつまで待てばいいんだろう、真が思ったそのとき、どこからか声が聞こえてきた。自分の名前を呼んでいる気がする。幻聴かもしれない、と思ったが、次第にその声がはっきりとし、
「上かっ!」
真は声の方に向け叫んだ。
「悠一ぃぃい! こっちだ、崖下だ!」
少しの沈黙。瞬間、真とノアルの頭上の霧が裂けるように晴れ、高い崖と青空が顔を覗かせた。
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