追走

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そして、そこから一つの影がすごい速さで落ちてくるのが見えた。影はそのスピードからは考えられない程軽く着地した。 二人は呆気に取られていたが、やがて真が口を開いた。 「ゆ、悠一か。何だよ今の……すげぇな」 「いや、これは俺がやったんじゃないんだが……あれ? どこ行った?」 悠一も心なしか地に足が着いていないように見える。キョロキョロと辺りを見渡していると、 「おーい……あぁ、そっちか」 どこからか聞き覚えのない声がした。声の方を見ると、霧の中から黒いマントを着た男が一人、姿を現した。 「少し周りの霧の様子が気になってな。おぉ、ちょうどここにいたか」 そう言って金髪を揺らす男を、ノアルは驚愕の表情で見、 「お、お父様……なんでここに? 昨日外国へ出かけたばかりだと……」 「えっ?」 真は男とノアルを見た。確かに言われて見れば面影がなくはない。ノアルのすらりとした鼻筋と、輝くような金髪は、父譲りのものなのだろう。しかし目はノアルのそれとは対照的に、細く鋭い。そこにノアルと同じライトブルーの瞳が煌めいている。 「お前が誘拐されたという情報が入ってな。急いで戻ったんだが……」 男は真と悠一を見て、 「その必要はなかったみたいだな。ありがとう、お二方」 ニッと白い歯を見せた。 「情報が入って、って……早過ぎるだろ」 真が悠一にしか聞こえないくらいの声で囁いた。 「だな。もっとも、もう多少のことには驚かなくなってきたが」 悠一も囁き返す。男は辺りを見渡して、 「今日は一段と霧が濃いな。それにこの辺は林の最深部。やっかいだな……」 呟いたのち、真と悠一に向き直り、 「そういえばお二人さん、見ない顔だな。この近くに住んでるのか?」 先程ノアルが真に聞いたようなことを尋ねた。二人は顔を見合わせ、無言の会話を二秒、 「話せば長くなるのですが、僕たちは今自分達自身の状況をはかりかねている状態なんです。家は近くにはありませんし、これからどうするべきなのかも分からないんです」 悠一が答えた。男は一瞬真剣な顔付きをし、 「じゃぁ、うちに来るか? 娘を助けてもらったお礼したい。夕食をご馳走するよ」 「えっ、いえ、そんな――」 ――申し訳ないですよ。と悠一が言おうとした時、夕食と言う響きに今まで意識の外にあった空腹を感じた二人の腹が鳴った。
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