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僕は右手の手袋を脱いでみせた。
小指と薬指の第二関節より上がない。
「ちょっとした事故でね、」
もしこの指があれば。
今この少女に話す事も違っただろう。
【ミュージシャンを目指しているんだが、全く売れなくて】
そんな具合に。
そして先ほどの少女の言葉に救われ深海に沈む―。
結構な話だ。
「だけど、まだ弾けるわ。ないのは指先だけ…弦を押さえる事ができれば」
「馬鹿言わないでくれ。ギターは生の指先で弾くんだ。触れている物が変われば音も変わっちまう」
ふぅ、と落ち着かせるように一呼吸。
相手は幼い少女だ。
こんな事で声を荒立たせるなんて――堕ちたものだなと苦笑。
「でも私には、貴方がミュージシャンに見えるわ」
「よく言うよ」
「じゃあ何故弾かないギターを持ち歩いているの?」
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