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「あぁ、いきすぎた」
ドラゴンと交差した2本の剣、それを囲む氷の結晶が描かれたバッチ。
モノクロの為、色は分からない。
そのバッチが画面いっぱいになったのを確認すると、早送りのボタンを離し、巻き戻しボタンを押す。
イサがズボンのポケットからそのバッチを抜いた所で巻き戻しボタンを離すと、映像は再生された。
『これは、×ら××のバッチだ』
携帯電話から聞こえる、ノイズが混じったイサの声。
画面いっぱいに、バッチが映る。
「ら?
やっぱり分かんねぇ……」
『いいか、××お前が勇者の生まれ変わりか尋ねる輩が現れて、な××つこのバッチを持っ×いたら、そいつにはしんじ×を話すんだ。
詳しい事は手紙に書いてあるが、そいつはきっとお前の手助けをし××れるはずだ』
(これ……。
このセリフ。
そして、このバッチ)
動画を一時停止する。
(要はこのバッチを持っていたら、今回の事件、何らかの形で知っている可能性が高い……。
臆測だけど……。
勇者イサは、百年後の未来、つまり今……。
俺をサポートする様に、誰かに頼んだんじゃないか?
それで、俺に信じてもらう証拠として、その人物にこのバッチを渡した)
携帯電話を折り畳み、握りしめたまま、喉を鳴らす。
(もしかして、それがシュランツなんじゃないのか!?
それなら全てに説明がつく。
あの朝食の時も。
昔聞いた事があるって言ってたあの時。
何年か前に、きっと聞いてたんだ。
勇者イサから直接聞いたかは分からないけど。
バルジャーモが過去から未来に行った事。
そのせいで俺が勇者イサに変身してしまった事を)
部屋一面に敷き詰められた夜空を映し出すガラス。
それに自分の姿が映り、ふっと我にかえる。
知らぬ間に、自分が鬼気迫る表情を作っていた事に気がつき、深呼吸する。
「はぁっ……。
……あるか?
いや……。
でも……、一応。
そうだな」
腕を組んだまま何かを考えている様で、一人言を呟く。
喋り終えると、携帯電話を右手に握りしめたまま部屋の入り口まで歩き出し、明かりを消して部屋を出た。
今は亡き執事の部屋目指し、壺や観葉植物が飾られた薄明かりの廊下を、無言で歩いて行くブレイク。
その額からは、うっすらと汗が流れていた。
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