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「このバッチ。
ホーン討伐隊のバッチですよ!」
「ホーン討伐隊!?」
「はい。
やっぱり昔シュランツさんに見せてもらったんです。
あれは私がコア家に雇われて直ぐの頃でしたね」
「雇われた頃って、マキナが産まれた12年前だよね?」
「えぇ、その通りです。
あの頃はまだコア家に仕えていたのはシュランツさんしかおりませんでした。
そこで、旦那様が私の歓迎会を開いてくださって。
私とシュランツさん。
そして、旦那様と奥様の4人だけだったのですが、高級料亭に連れていってもらったんです」
淡々と思い出話を語るロッテル。
その話を、時折相槌をうちながら聞き入るブレイク。
「その時に見せていただいたんですよ。
自己紹介がてらにそのバッチを見せてくれて、昔ホーン討伐隊に所属していたって話してくれて――」
「えっ!?
ちょっと待って!?
初耳なんだけど!?
シュランツって、昔ホーン討伐隊に所属してたの!?
陸軍にいたって聞いた事はあったけど……」
意外な事実を知り、目玉を大きく見開きながらロッテルの声を遮る。
「あぁ……、そうでした。
まぁ、もう喋ってしまいましたしね」
喋ってしまった事に若干の罪悪感を抱くも、ロッテルは会話を続けた。
「最初は陸軍に所属していたらしいんですよ。
腕を買われてホーン討伐隊にスカウトされたとか。
シュランツさん、どうやらホーン討伐隊に所属していた時にあまりいい思い出がなかったらしくって、自己紹介の時もこの話をする事を躊躇っていたんです。
だから、ぼっちゃまやお嬢様には内緒にしておいてくれって言われていたんですよ」
「全然知らなかった……」
執事の過去を知り、仰天の眼差しを向ける。
「それで、ぼっちゃまは何故このバッチを探していたのですか?」
「えっ!?
あぁ、あの……。
前に見せてもらった事があって……、シュランツから貰う約束をしてたんだよ――」
その場しのぎとはいえ、死んだその日に探すなんて、我ながら酷い言い訳だと言いながら後悔する。
「そうだったのですか。
確かに、あのデザインは若者に人気がありそうですしね」
だが、そんな事は全く気にせず、にっこりと笑顔を見せてくれたメイドの優しさに、ブレイクは心底安堵していた。
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