序章

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耳が聞こえなくなってきた。周りには家族が集まって必死に体をさすりながら声をかけてくれているようだ。こんな間際まで本当に良くしてくれた。この感謝の気持ちを伝えられないのがもどかしい… ふと、昔読んだ、『宮沢賢治詩集』の一説を思い出す。賢治が死に瀕している中で遺した詩だ。 『駄目でしょう、止まりませんな。がぶがぶ湧いているですからな。』 から始まるこの詩の中で、面倒を看てくれている人への感謝と穏やかな気持ちを記していた。今の自分がまさにそれだ。手足の感覚も薄れてきて、いよいよ最期の時が迫っているようだ。 僕の頭の中に走馬灯のように記憶が蘇ってきた…。
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