出逢い

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「お~い、隆~!」 馴染みの声がする。振り向くと、手を振りながら志郎が駆け寄ってくる。奴とは保育園の頃からの幼なじみだ。 「そんなに急ぐと、また転ぶぞ~!」 「大丈夫だって!…うわっ!」 「ほら、言わんこっちゃない…」 ものの見事にすっころんだ。ここまでベタな奴も珍しい。 「なあ、夏休みの読書感想文、テーマは決まったかい?」 「う~ん…まだなんだよなあ…」 毎年、悩みの種だ。 あ、俺の名前は隆。鈴木隆だ。名字がありきたりだからみんな下の名前で呼んでくれる。 「俺もなんだよなあ…どうしたもんだろ?」 で、コイツが志郎。近藤志郎だ。 「隆、去年は何を読んだ?」 「ああ、『裸の大将放浪記全四巻』だ。挿し絵もあって、結構面白かったぞ?」 「あれって分厚いんだよなあ…もっと気軽に読めるのないかな…」 志郎は学校で渡された『推薦図書一覧』をぱらぱらとめくる。内容ではなく、頁数を見ているのだろう。 「う~ん…あ、これいいな、『風の又三郎』だって。きっとチャンバラ活劇だぜ?」 「チャンバラ…はぁ…」 頭が痛くなってきた。 「宮沢賢治がチャンバラなんて書くわけないだろ」 「そうなのか?そもそも、宮沢賢治ってどんな人?」 「どんなって…」 僕は志郎の問いにはっとした。考えてみれば、良く知らないことに気がついた。 「そうだ…まずは宮沢賢治を知らなくちゃならないな。よし、決めた!宮沢賢治について書いてある本にしよう!」 「じゃあ、僕は『銀河鉄道の夜』にしようかな。」 「『風の又三郎』は?」 「こっちの方が面白そうだからね。SFみたいで。」 (アニメ化されたのを見たけど、凄く考えさせられる内容だったような…。まあ、いいか。) 「じゃあ、二学期に!元気でな~!」 「志郎もな~!」 僕達が通う小学校は私立だから電車通いが多い。学校以外で逢うことは殆どなく、本当に親しくなる友人は皆無と言っても過言ではない。 志郎は保育園を卒園した後に隣の県に引っ越してしまったから、小学校で逢った時には本当に驚いたし、嬉しかった。二学期に元気な姿で再会出来ることを願って僕達は別れた。
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