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亡き祖母の跡を継いで霊能力者になった夏樹は、2年近く前に起こったある事件から、祖母から教わった術を全てマスターし、さらに自分なりにアレンジした術も身につけた。
あの頃の自分は心も力もひ弱な人間だったが、今は違う。
どんな依頼も、文句の1つも言わずに引き受けていく。
困っている人を助けたい、自分でそう決めたから…。
高校2年生になってから、今のマンションに引っ越した。
出来るだけ学校から近くなるようにと、母が気を配ったのだ。
何故なら、夏樹の母の転勤が、突然決まったからだ。
新しい職場は鎌倉で、母は単身赴任で転勤してしまった。
今は夏樹1人…いや、1人と1匹だ。
夏樹の愛猫、妖怪の猫又・蜜柑がいる。
だから1人でも怖くないし、祖母もいる。
昔はよく幽霊で出てきていたが、あの事件から全く出てこなくなった。
それでも夏樹は、毎朝ご飯を仏壇に供え、線香もあげて拝んでいる。
これは毎日かかせない、夏樹の日課だ。
そんな夏樹も1人暮らしにも慣れ、同じ階の人・部屋の上と下の階の人には挨拶に行ったが、隣の人にはまだ挨拶に行っていない。
いつも留守だからだ。
タイミングが合わないのだろうと思いながら、夏樹はいまだに放置している。
自分のマンションに着いた夏樹は、自分用のポストの扉を開けた。
普段はダイレクトメールしか入っていないが、今日は白い封筒が1つだけ入っている。
封筒にはマンションの住所に『藤川夏樹 様』と、筆で書かれており、切手も貼られていたので、投函された手紙だ。
裏を返してみると、差出人の住所は書いていないが、しっかり『飛鳥井雅春』と名前は書かれている。
夏樹はその手紙を持ってエレベーターに乗り、部屋の階のボタンを押して目的地に着くまで後ろの壁にもたれかかっていた。
チーンとエレベーターが到着した音が鳴り、夏樹はエレベーターから降りた。
部屋の鍵を開け、靴を脱ぎ、すぐにリビングに行ってソファーに座った。
夏樹は早速、届いた手紙を開けた。
全然知らない人からの手紙で、中身が気になる。
依頼だろうと思い、便箋を取り出して手紙を読み出した。
夏「…やっぱり」
その内容は、夏樹の予想通り、依頼の手紙だった。
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