さまよう姫君と襲う鎧

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辿り着いた所は、小さな展望台だった。 観光客がここから景色を見るために設けられたみたいだ。 その手すりのそばに昨日の姫の霊と、手すりの上に誰かが腰かけていた。 薄いピンク色の衣を頭から被り、顔を隠しているので誰なのか分からない。 だが、1階の展示コーナーからここまで来る間に聞こえてきた歌声の主だろう。 透き通る声、鈴のように高い声で歌っているので女だと分かった。 霊は、この歌声に引き寄せられたのか。 すると、女がゆっくり語りかけた。 ?「この城の人柱になったのが、辛かったのですか?」 衣を着た女は、優しく霊に話しかけ、柊一もその様子を見ていた。 ただ呆然と見ていた柊一は、階段を上がってくる奇妙な音を耳にした。 昨日、柊一を襲った鎧武者だ。 柊「奴が来た!!」 アイツは何やってたんだと怒っていたが、今はそんな場合ではない。 鎧武者の後ろには克也がいた。 克也は手を前に出した。 克「カン!!」 不動明王の呪文の最短を叫んだ。 克也は陰陽師の力を持っており、札で式神―手のひらサイズの人形―を出したり、先程のように、不動明王の呪文を唱え、炎で攻撃することなど…なんでも出来る。 鎧武者は克也が放った炎で、全身が燃えていた。 その時、女の霊が燃えている鎧武者に近付いていった。 そして…優しく抱きしめ、霊は静かに消えていった。 残ったのは、燃え尽きた鎧だけで動くことはなかった。 柊「…成仏、したのか?」 柊一は複雑な気持ちだった。 鎧武者と一緒に燃えてたのに、あれでよかったのだろうか…と、後味の悪い結果になったからだ。 ?「…」 手すりに腰かけていた女は、スルリと滑るように下へと落ちていった。 柊「あっ!!」 柊一が手すりに駆け寄って下を覗くと、そこには誰もいなかった。 柊「今のは…誰なんだ?」 柊一は、先程の女が何者なのか…じっくり考えていた。 夜風が柊一の髪と頬を優しく撫でていった。  
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