水滴

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あぁぁ…暑いぃ…… ゆらゆらと陽炎がたつ黄金の砂。 いくつもの砂丘を越えたその先には、この旅の目的地、ゴールデンサンドがある。 頬から垂れるはずの汗は、ふきでた瞬間から蒸発し、肌から僅かだけの熱を放出させる。 深い砂色のフードを 目深にかぶり、同じ色の砂よけマントと、何を踏んでも足を痛めることのない底が厚めの黒皮のブーツ。 背中には何か長めの竿のような反った黒い棒をかつぎ、 それに不似合いな白と金の装飾をしたこ洒落たポーチをマント下の肩にかけ。 僅かにフードの隙間から見える顔に、ふわりとブラウンシュガーの毛がゆれたような気がした。 しきりに何かを呟いているようだが、それはことごとく砂の陽炎の中へと吸い込まれていった。 凄く凄く、長い長い道のりだった。 オレ、ここまでの人生の中で、あまり楽しいことは無かったけど、 今こんな広い砂の海で、大の字になって精地を抱きながら死ねるなんて、感無量だゼ。 ……… はぁ………… 無念んぅ……。 とさっ…… 旅人はその場ですなけむりも上げず体重を感じさせない崩れ方をしながらうつぶせに倒れこんだ。 倒れた拍子にぽん、と肩にかけたポーチが外れて、その場で色とりどりの細かいつぶの入った子瓶がころころとちらばる。 「…!!?」 突然旅人は勢いよく起き上がり、そのちらばった小瓶をかき集めた。 集めた後に、それは最後の気力だったのか、またとさりとその場につっぷしてしまった。 サァサァサァ…… 深い広い精霊の地、生き物の崩れた成れの果ての、 魔王が潰した死の森の、 砂漠。 たまにはそんな終幕もある。死の砂つぶは多分沢山の生き物を飲み込んで精霊の糧に。 しかし。 ふぅわりと旅人の姿を黒い影が包み込んだ。 ごぼりっ!という音と共にその旅人の回りの砂は盛り上がり丘になり、あぁなんということか。 丘から巨大な森が砂をほろわせながら出現した。 ザァザァザァ……砂は木々からくずれ落ち、旅人を森の中へと飲み込んだ。
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