水滴

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「だから、オレはあんたがもの凄く恐ろしい。」 そいつは声を出して笑い始めた。 ひぃひぃと。 それも悲しみがこもっているように。 泣いてるようにも聞こえる。それはしばらく続き、 やがて、すぅ…と落ち着いて息をはく。 「…僕には何の力もありません。あなたに精霊の加護もあたえれない。力があったら、人間などに殴られなんかさせません。」 「……」 「力があったら、僕の起こした水流で溺れたあなたなど助けもせず見過ごすでしょう。 力があったら、自力で封印を解いて、僕にこんなことをしたヤツを殺しにいく所です。 力があったら…… あったら……」 不気味なほど無表情で、まばたきもせず沢山の無力さをつぶやくそいつ。 はん。むなくそわるいぜ。 オレは砂に刺した漆黒の剣を背伸びしてぬきとると、足を一歩前に出し、そいつを片手で水平に持ち上げた。 切っ先をそこの精霊の鼻先に向けて。 「なら、あるよ。 オレには。 オレには力があるよ。」 そいつはオレが笑ったのを見てつられて口をほころばす。 「まさか。あなたは大地を揺るがし海を割り、空轟き支配する…そんな精霊の力も持ってはいない。ただの人間に見えますが…。」 この精霊世界には、自然を支配する霊たちの祝福をうけ、個人の思考をもって力を使い生活を豊かにするもの達がいる。 聞いた話、山一つを丸呑みにするほどの巨大ミミズが現れた時、その山に棲む風の精霊の祝福をうけた一人の老人が力を使い、ミミズを星の外まで吹き飛ばしたものがいたらしい。 また、日照りの続く大飢饉で人や動植物が次々と倒れ作物が全く取れなかった地に水の精霊に祝福された旅人が通り掛かり、厚い雲を呼んで何キロもの平地に雨を降らせ、人々を助けたという。 オレ自信、祝福された人間はまだ見たこともなく、実際そんな大味で使いづらい力など必要ないとも思える。 「オレのはもっと違う。世界の根源であった存在……。」 オレはゆっくりと黒い剣を下ろし、それを見る。黒い。ひたすらあたりの光りを吸い込み光沢一つないそれは、飾りもなにもない竿のように見える。 「…何ですかそれは。神?」 「神の力を使える人間が精霊を見て恐れるわけあるかいっ!!」 「ですよね…あぁっ、その顔で怒らないで下さい!ギャップが辛いですってば!」
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