箱庭

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この国が大きいかなんて、この街が小さいかなんて、そんな事は知らない。 気付いたらボロ布を着てた。腹をすかせりゃ、その辺のモノを喰った。 苛つけば殴ったし。関係ない奴でも構わない。俺の気が晴れればな。 それが楽しかったなんて事は無い。そうする事が、当たり前だったんだ。 ずっとそうしてきた。考えるのなんて、面倒臭い。 でも俺バカだから、今更考えなさ過ぎだってちょっと後悔してる。 あんなとこ行くのは御免だ。 浅黒く、豹の様にしなやかな筋肉がついた青年の腕、チャリチャリと擦れあう、不快な金属音を発てる鎖。そこに随分と傷付いた薄汚いプレートがある。傷付いて尚、それでも刻まれたその数字は、存在を主張する。 〔000〕 ゼロナンバーはこの国に必要の無い者の数字。 生活、仕事、すべてを管理され、個性の無くなった人間達の中、感情を表に出し、自分を主張する存在は、悪に立ち向かう英雄でも、愛する者のために命を投げ出す者でも、国の規律を乱す邪魔な存在でしかない。 まあ、それだけじゃ無いけど。親に捨てられてナンバー没収されたりな。 そういう場合、元のナンバーの上からゼロナンバーを焼き入れられる。 初めからゼロナンバーを持ってる奴なんて、そうそういない。 俺を産んだ誰かさんは、腹ん中いる時から、俺が気に喰わなかったらしい。ひでえよな。おかげで人間扱いされた事さえない。やりたい放題だけど。 それがいけなかった。 さすがにお国がそれをほっとく訳ない。 でも俺は悪くない。 俺を殺そうとしたバカの喉ぶえに噛み付いてやっただけだ。 ヒューヒュー言ってたけど、生きてただろ?俺が見た時は。 眼が気に喰わないって、手を出してきたのはあっちなのに。 すれ違いざまに、肩を掴まれ、冷えきったコンクリートの壁に叩きつけるように抑えつけられた。 爪が肩に食い込んで、爪ぐらい切れよって思いながら、ぼんやりとソイツの顔を見てただけなんだけど。 「人間様に対する礼儀がなってねぇな!」 そう言って首を掴まれてな。ゼロナンバーは、家畜みたいなモノだから。ナニしても許されるとか思われてる。でも知ってるか? 俺も一応ニンゲンなんだよ。お前等より下に見られるいわれは無え。
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