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「どんちゃんどんちゃんどんちゃんちゃん!」 「めでてえめでてえめでてえな~っ! 誰にも邪魔はさせねえぞ~誰にも遠慮は要らねえぞ~!」 赤提灯。揺れる灯火、今宵は満月。 ぼろぼろ朽ちかけの材木で組まれた平長屋。 台風とまでは行かなくても、ちょっとばかり強い風が吹いたなら吹き飛んでしまうぞぼろ長屋。 そんなおんぼろぼろぼろ平長屋。 でも安心していいぞ。 風など絶対吹かぬから。 「わっははわっはぁ! 今日は満月めでてえなあ!」 おんぼろ長屋の赤提灯。 揺れる灯火は誰かが投げ込んだ懐中電灯の灯り。 一歩外から出てみれば、差し込む月光ゆらゆらと。 優しく照らすよ平長屋。 「騒げば気付いてくれるじゃろ。どんちゃんピーヒャラ。騒げば皆に会えるじゃろ」 おんぼろ長屋はダムの底。 数年前からダムの底。 別れたあの人恋しいと。 都会の息子はまだじゃろかと。 光に釣られて騒ぎ出す。 月の光は道しるべ。 なれば騒いで笑っていよう。 我らの御霊が悲しみに。我らの声が冷水に押し潰されてしまう前に。 おんぼろ長屋で迎えを待とう。 今日はめでたい。 だって遥か空の上、ゆらゆら光る満月がとても綺麗だから。
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