20人が本棚に入れています
本棚に追加
「雨だねえ」
薄暗い空を見上げながら、僕の隣に並んで歩く彼女が言った。
それに倣い、僕も空を見上げてみる。
ぽつり
見上げた途端、鼻先に当たる冷たい感触。
やがて、ぽつりの間隔は短い物になっていき、それは次第に音を伴い始める。
つまりは“本降り”。
本当に申し訳ないなって思う。
楽しみにしていた二人の初デート。
彼女なんて、待ち合わせの二時間前から駅にいたらしいし。
「なんか……ごめんね?」
「何がだね?」
申し訳なくなった僕の口から出たのは謝罪の言葉。
そんな僕を見る彼女の顔はといえば、ただひたすらに穏やかで。
「うんにゃ、ここから意外と楽しくなるかもよ~?」
そうは言ってくれるが。
あれから避難する様に駆け込んだのは、公園にあるトンネル山の遊具の中。
山を叩く雨の音は増すばかり。ザンザンと響くような雨の音が、いたずらに僕の心に不安を広げる。
初デートはお流れかな?
肩を落とす僕をよそに、彼女は瞳を閉じる。人気もまばらな雨の公園。
狭いトンネルの中、彼女は大きく両手を振り上げると。
「さながら、荒くれ達のオーケストラだね?」
雨粒がトンネルを叩く音を楽器代わりにして、彼女は速いリズムで指先タクトを振った。
「……気にするな。私は結構楽しんでる」
だからアンタも楽しみなさい。
そう言われた気がして、僕はただぎこちなく笑った。
最初のコメントを投稿しよう!