雨にタクト

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「雨だねえ」 薄暗い空を見上げながら、僕の隣に並んで歩く彼女が言った。 それに倣い、僕も空を見上げてみる。 ぽつり 見上げた途端、鼻先に当たる冷たい感触。 やがて、ぽつりの間隔は短い物になっていき、それは次第に音を伴い始める。 つまりは“本降り”。 本当に申し訳ないなって思う。 楽しみにしていた二人の初デート。 彼女なんて、待ち合わせの二時間前から駅にいたらしいし。 「なんか……ごめんね?」 「何がだね?」 申し訳なくなった僕の口から出たのは謝罪の言葉。 そんな僕を見る彼女の顔はといえば、ただひたすらに穏やかで。 「うんにゃ、ここから意外と楽しくなるかもよ~?」 そうは言ってくれるが。 あれから避難する様に駆け込んだのは、公園にあるトンネル山の遊具の中。 山を叩く雨の音は増すばかり。ザンザンと響くような雨の音が、いたずらに僕の心に不安を広げる。 初デートはお流れかな? 肩を落とす僕をよそに、彼女は瞳を閉じる。人気もまばらな雨の公園。 狭いトンネルの中、彼女は大きく両手を振り上げると。 「さながら、荒くれ達のオーケストラだね?」 雨粒がトンネルを叩く音を楽器代わりにして、彼女は速いリズムで指先タクトを振った。 「……気にするな。私は結構楽しんでる」 だからアンタも楽しみなさい。 そう言われた気がして、僕はただぎこちなく笑った。
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