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ベッドに戻った流宇は、まだジンジン痛む腰をさすりながら母が部屋から出て行くのを見送ると、大きなため息をついた。
いい年をしてあんな乙女チックな夢を見るなんて。
げんなりしながらさらにため息をついてしまった。
現在33歳の流宇があんな夢を見たのはそれこそ15年ぶりだった。
身長182センチ。その長身を活かし、バレー部のブロッカーとして白球を追っていたあの頃以来だ。
学生時代、バレーボールに精をだしていた頃のあだ名は『巨人兵』、だった。
邪魔な髪はスポーツ刈り寸前のベリーショート。
若い頃、その美貌で男をとっかえひっかえしていた母の遺伝子はどこへやら、天文学者だった亡き父親の精悍な顔つきを流宇はまともに受け継いでしまったのだった。
それは、今でも父を愛しているという陽子は流宇を見るたびに「朔太郎を見ているよう」とうっとりした目つきで呟くくらい。
(ちなみに、「流宇」という名前は天文学者であった父親がつけた。)
ラフな私服を着て歩こうものなら、ほとんどと言っていいほど『男』と間違われ、
女性はおろか男性の平均身長をはるかに上回る長身のせいで共学にもかかわらず、男子生徒からは遠巻きにされていた。
そんな男前な見た目に反し、流宇の中身は乙女チックだった。
妄想の彼氏とデートしたり、手を繋いだり、あまつさえキスしたり。
そんなことを想像していた10代・・・。
がしかし、医学部への受験を控えた頃から医学部へストレートで受かった後も、医師免許を取得した後も、想像を絶するほどハードだった研修医時代も、実績を積むために大学病院で産科医として勤務していたときも、母の要請で羽鳥レディースクリニックに戻ったときも・・・あまりの忙しさに乙女ちっくな妄想することなどすっかり忘れていた。
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