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相変わらず、忙しい日々の中ですっかりあの夢のことなど記憶の彼方に飛び去っていた。
今日も今日とて受診やら検診にくる人々をさばいて、忙しい午後の診察を終えようとしていたときのことだった。
あと一人で今日の診察を終えるという時間帯に・・・クリニックのドアベルが音を立てた。
リンリン。
母親の趣味でつけられたドアベルは耳ざわりのいい可憐な音をはっした。
「こんにちは。本日は診さ・・・・・。」
診察室の隣にある受付けから聞こえるスタッフの声がふいに止まった。
それを不審に思った流宇は、最後の患者の診察記録を電子カルテに書き込む作業を止め、受付のほうに顔を出した。
受付には・・・ぬけるような白い肌とプラチナブロンドの髪の美少年が立っていた。
いや美少年というよりは美青年というべきか・・・。
顔の彫りはやや深めで、ぱっちりした二重の瞳はサファイアのような青だった。
外人だろうか?あきらかに日本人離れしている容姿。
そして、なにより明らかに10代後半と思われるあどけなさの残る青少年が、『レディース』クリニックにどんな用があるのだろうか。
突然現れた謎の美しき青少年に一同で固まっていた。
しばしの沈黙の後、こちらを向いた彼が高い鼻の下にある健康的なサーモンピンクの口を開いた。
「すみません。こちらのセンセイは。」
意外や意外。
外人のような彼は淀みのない日本語を発した。
青少年の美しさに、女性ばかりがそろうクリニックのスタッフ一同が言葉を発せずにいるなか、いち早く正気に戻ったのは流宇だった。
「院長は不在です。今、ここにいる医師は私だけですが?」
一応、ここにきたのだから用件だけは聞こうと流宇は受付の脇のドアを開けて待合室に出た。
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