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とうとう頭イカれたか、このミストレス(女性バレエ教師)は。と、友子は思った。
この日は、東京バレエコンクールに出演する生徒達に、それぞれの課題作品を言い渡される日だった。
東京バレエコンクールは、毎年春に開催される、日本随一のコンクールだ。第一予選、第二予選、、決勝、と言う具合に段階付けされており、第一予選を通過するだけでも、かなりの実力が必要とされる。決勝ともなれば、皆ほとんどがプロ級のテクニックを持ち、その中でも、特に「光る」物があるダンサーのみが、賞を受け取る事が出来、そこから有名バレエ団への附属教室や、バレエ留学への道を開く事が出来る。いわば、登竜門だ。
森本バレエスタジオでは、選抜クラスにいる生徒だけが、このコンクールに出場する事に、事実上なっている。と言うのも、コンクールの為の特別レッスンは、選抜クラスしか受講出来ないからだ。出場だけなら、年齢制限さえクリア出来れば、ちょっと書類を用意すれば誰にでも出来る。
ただ、そんなことをしても結果が火を見るより明らかである事、特別レッスンはマンツーマンで受講出来る事、バレエスタジオの衣装を借りる事が出来る事、等々の理由により、選抜クラスにいる数人の生徒だけが毎年コンクールに挑戦しているのだ。
そして、一人一人ミストレスに呼び出され、課題の演目が告げられる。「白鳥の湖」のオディールのヴァリアシオン(ソロ)、「くるみ割り人形」の金平糖の精のヴァリアシオン、と言った風だ。
問題は、友子に告げられた、課題演目であった。
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