出会い

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患者に浅野が近づいて、「うまく行きましたよ。このあとはICUに移るからね」と言う。「では浅野先生、お願いしますね」 下部消化管専門の浅尾がこの患者の主治医なので術後管理と術後の家族への説明を任せ、次のラパコレに向かうため、退出すると看護師が駆け寄ってきた。「毒島先生、安田先生が呼んでます。第三手術室なんですが、ラパロで大量出血してて」 今日の腹腔鏡手術は第一外科では自分の腹腔鏡下胆嚢摘出術だけである。とすれば、他科だろう。他科の手術に手を出すのは医局のルール的に許されない。その出血を止めたらその科のメンツは丸潰れだ。この娘に私が患者を見殺しにするのを見せるわけにはいかない。 「わかりました。すぐ行きます。松沢先生は、第四手術室で事情を説明して、オペレコを書いてて下さい」 そのまま、第三手術室の行くとそこはまさに戦場であった。温厚な性格の麻酔科医安田が叫んでいた。「追加のMAP まだか。ヘスパンダー追加して。セボフルラン切ります」 安田はケタミン(全身麻酔剤)に切り替えると、また必死に血液をポンピングしだす。輸血も輸液も全開にしてあり、速いスピードでポタポタと落ちていく。
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