出会い

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「メッツェン、鑷子」 毒島は鑷子(ピンセット)を左手に、メッツェンは右手で持つ。 鑷子で上行結腸外側の壁側腹膜を摘む。 メッツェンでその部位に切開を延長する。 切開創を鑷子で摘み、更に切り上げていく。 肝臓の下に腎前面が見える。 腎前面付近、右結腸曲が肝臓の下(肝結腸間膜)、胆嚢(胆嚢結腸間膜)とがっちり癒着している。 繊維素で蜘蛛の巣の如し惨状だ。 「クーパー」 メッツェンでも剥離できるが、先が尖っていてリスキーなのだ。 先が鈍なクーパーのほうが剥離には適している。 患者は胆石の病歴があり、溶解療法で治癒しているが、その時の炎症が癒着を招いたようだ。 毒島がクーパーで大胆に、剥離する。 一歩間違えば、胆嚢を傷つけ胆汁漏を起こす。 胆汁は強い消化液だから、腹腔内に漏れれば(胆汁漏)、腹膜炎を起こしかねない。 しかし、まるで怯えるふうもなく、事もなげに剥離していく。 BGMの『わかれうた』の一節を歌いながら。 クーパーもBGMに呼応し、歌うように剥離する。 剥離を終える。 毒島の剥離手技の大胆さと速さ、美しさに松沢はため息をつく。 なんて早い剥離なんだ。
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