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上行結腸と回結腸動脈、十二指腸水平部がつくる三角形の部分の腹膜(上行結腸間膜)の剥離に入った。
毒島が左手で腸を軽く内側に持ち上げ、引っ張る(牽引挙上)。
さらに浅野も腸の右側を牽引挙上する。
腸に触るときはいつも時ガン周囲とガン自体に触れないように細心の注意を払う。
牽引挙上したことで、間膜は自然な層で剥がれていく。
「クーパー」
毒島が右手にクーパーを持ち、それを補うように剥離をする。
もし今層を誤れば、右精巣動静脈や右尿管を損傷してしまう。
見事にクーパーは正しい層で剥離していく。
その証拠に黄色っぽい脂肪をかぶった大腰筋が現れた。
浅野医師の腸にかけるテンション(引っ張り)も丁度いい。
たいして剥離しないうちに十二指腸が現れる。
上行結腸は15cmほどと意外と短いんだな、剥離すべき場所も小さいんだと松沢は感慨深く思う。
生きた外科解剖は解剖実習では分からない。手術を見て、やって学ぶものなのだ。
「電メス、鑷子」
毒島は鑷子でカウンタートラクションをかけながら、電気メスでバリバリと大網右縁と上行結腸上部の癒着を切離する。
ジー、ジーと電メスの音が、響く。煙も出、肉の焦げる匂いまでする。
「ケリー」
浅野の低く曇った声が響く。
浅野はケリー鉗子を受け取ると、ケリー鉗子を切離している下層に潜らせるように、入れて毒島をサポートする。
「ネッツ(大網)切離します。浅野先生、横行結腸を尾側、ネッツを頭側に引いて下さい」
浅野は分かってると言わんばかりに、適切に引いた。
漿膜浸潤、大網浸潤がない、盲腸から上行結腸下半にがんが限局している、胃幽門下リンパ節転移・胃大彎リンパ節転移がない場合、大網は切らなくてもいいが、この症例は漿膜浸潤しており、胃幽門下リンパ節転移・胃大彎リンパ節転移もある。
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