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毒島のクーパーは淀みなく動き、回結腸動静脈根部周囲を郭清して行く。
「はい、今度213番リンパ節」
郭清されたリンパ節は病理診断のために、ホルマリン(組織の固定液)の入った標本瓶の中に入れられ、病理部に送られる。
そして種々の固定作業を経て、プレパラートが作られ、顕微鏡で転移の有無が診断される
最短で一日から二日、大学病院のように病理医がたくさん病理診断しなければならない状況下では一週間から二週間は結果が出ない。
ゲフリール(迅速病理診断)なら五分で結果が出るが、確実さに欠け、誤診も出やすい。
リンパ節郭清で迅速診断が必要なのは後遺症がひどいので、なるべくリンパ節を温存したい乳がん手術である。
「『肉』切ります。電メス下さい、あと鑷子」
肉とは腸間膜の残った組織のことである。
鑷子で補助しながら、毒島の電気メスは肉を切っていく。
動脈弓に注意を払いながら、電メスを動かす。
煙と共に、肉の焦げる匂いがする。
「松沢先生、サクション(吸引)で煙を吸って」
吸引器で松沢が煙を吸い、視野を確保する。
浅野は何も言わず、腸を把持する力加減を調節し、切りやすいようにした。
腸管壁ぎりぎりに到達する。
「トリミングします。クーパー」
切った切離面をクーパーで切り、整える。
同じ作業を同じく切り離す予定の部分(切離部)の結腸でも行う。
『時代』の曲のリズムに乗って、軽やかに穏やかに手術は進む。
「大コッヘル」
切離部に大コッヘルをかける。
「腸鉗子」
3cm離して腸鉗子をかけた。
「尖刃刀」
尖ったメスが渡される。
コッヘルの少し残す腸鉗子側をメスが走る。
腸がついに切除された。
「はい、検体出ます。ゲフ(迅速病理診断)に出して」
その腸は、毒島の手から、器械出しの膿盆へと移る。
こうして、腸は切除された。
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