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切り取られた腸の断端(切り端)にがん細胞がある場合、追加切除しなければならないが、断端にがん細胞が無ければ、がんの浸潤を取りきれたとして吻合に入れる。
この断端のがん細胞の有無を調べるのが、今回の迅速病理診断である。
臓器の断端を、液体窒素で凍らせ、薄く切る。染色し、プレパラートを作り、顕微鏡で覗く(検鏡)。
所要時間は数分程度である。
毒島は術野を離れ、手袋を脱ぎ捨てる。
「外回りさん、新しい手袋を」
新しい手袋を出させ、はめる。
腸を膿盆に渡した時に腫瘍部に触った可能性がある。
そうなるとがん細胞が手袋につき、腹腔内にがん細胞を播く事になりかねない。
まず細心の注意を払っているので、触っていることはないのだが、ゲフリールを待つ間することもないので、手袋を変えたのだ。
毒島が悠然と術野に戻る。
「松沢先生、この手術の手術記録書いといてね。シェーマ(図)付きでね」
「はい」
松沢が返事を打った瞬間、インターフォンから声が流れる。
「病理部です。太田さんの迅速病理診断結果ですが、水平断端、垂直断端
とも陰性です。以上診断医桑田杏香」
病理医桑田からゲフの結果を聞き届けると、直ぐに毒島は器械出しにオーダーする。
「5‐0バイクリル、把針器」
バイクリル糸を通した針を把持した把針器が、毒島にパシッと手渡される。
腸の内膜に針を掛けて、通した。
「鑷子」
鑷子で通した糸を把持した。
「松沢先生糸をこのまま引いて」
「鑷子」
今度は浅野が低い声でオーダーした。
内膜を鑷子で見やすいように外膜との距離を取った。
どんどん毒島は腸を縫い進める。
あまり締めつけないように、そして糸と糸のバイトは意外と大きい。
二層縫合は驚くほど早い。
アルベルトランバート吻合による端々吻合を直に見るのは初めてだが、こんなにも早いものなのか?
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