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毒島は才能にも経験にも、研修医の時は指導医にも恵まれ、PDを四時間で完璧に切る技術を身につけた。
「天才なんかじゃない。私、だめな人間だし、凡才だから」
「そんなことありません。
こないだなんかPPPD(全胃幽門輪温存下膵頭十二指腸切除術。胃を切らないので、膵臓の視野が悪くPDよりも難しい手術)を四時間で、進行胆管がんの拡大PD合併肝切除を四時間半で終えたと聞いてます。
更には腹腔鏡下肝切除や腹腔鏡下膵尾部切除とか新しい術式も難なくこなし、
私、先生みたいになりたいんです。
先生に憧れてるんです。どうしたら慣れますか」
興奮した口調で、松沢は話した。
その憧れが外科医としてではなく、女性としてだったらどれだけいいか。
毒島は色黒でかわいくない自分の外見を呪った。
「じゃ外科志望なんだ」
「はい。第一外科志望です」
外科医への憧れと、持ち前の手先の器用さから一貫して松沢は消化器外科医志望だった。
「じゃ、教えてあげる。
とにかく切ることね。
切って、切って切りまくる。外科医は手術経験でしか成長しない。
あなたには研修中、いっぱい手術させてあげるから。
それから糸結びや縫合の練習を欠かさず、やりまくる。それだけよ」「はい。頑張ります」
「そのいきだよ。松沢先生は彼氏がいるの?」
毒島は一番気になることを聞いた。
「もう結婚してるんです。学生時代に」
夫を毒島は呪った。
でもこの色気を感じさせる発生源は人妻だからかも知れない。
人妻を寝取るなんてことが、出来たらどれほど幸せだろうか。
「そうなんだ。私は結婚に向いてないからな」
毒島は非婚主義者だ。
同性愛でも欧米なら結婚できるが、結婚という束縛的な制度自体に嫌悪感を感じているのだ。
「そんな風には見えないですけど」
「自由人だから、独身がいいの」
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