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とりあえず、直近の手術は痔核切除術である。
外科初級者向けの手術としては最適だ。
青い外来カルテファイルを松沢に渡す。
「取りあえず今日入院してくるヘモ(痔)を明日、執刀してもらうね」
「ヘモですか?」
「そう、内痔核の3度」
本当はヘモみたいな簡単な手術よりもっと難しい経験を積ませてあげたい。
彼女のためなら患者の一人や二人死んでもいい。
松沢は糸結びをパイプ椅子にしながら、不安げに聞く。
「糸結びすらマスターできてないのに、オペなんてしていいんですか?」
「どう転んでもヘモのオペで死ぬペイシェント(患者)はいないから大丈夫よ。それに糸結びもナート(縫合)もきっちり出来るようにしてあげるから」
私の微笑みに、松沢は安心した。
「ちょっと貸して」
糸結びをしていた松沢はナイロン糸をもらう。
松沢がしていた女結びとは逆に両手で、交互に二回半結びをする。
松沢は外科医らしい軽やかな手つきで糸結びをする毒島の姿に見とれた。
「これが男結び。ほどけにくいけど、スピードは女結びに負ける。やってみて」
松沢はナイロン糸を受け取ると男結びを見事にして見せた。
「外科結びは出来る?」
「少し練習したんで、多分」
パイプ椅子のパイプをまたぐように、ナイロンの両端が手前に来る。
ナイロン糸を右が手前、左が奥となるように交差させる。 右手の糸は、左手の糸に対して、上・奥から下手前へとくぐらせる。 もう一度同様にくぐらせる。 一旦両自由端をひき、緊張をかける。 自由端は左右が反対側にいっている。 今度は先ほどと逆に糸を右が奥、左が手前となるように交差させる。 右手の糸は、左手の糸に対して、上・手前から下・奥へとくぐらせる。 自由端を引き、緊張をかける。
言葉にすると簡単なようだが、これが意外と難しい。
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