オープニング~冬谷蓮弥の悩める日々の始まり~

2/10
前へ
/225ページ
次へ
 春。この季節の名を聞いて、君は一体何を想像するだろうか?  桜――さくら――――サクラ。うん桜。もし急に訊かれたら、俺はそれしか想像する事ができない。残念ながらな。  さて、最初から用意していた答えを言うと、俺の場合は、”初”だ。  そう、俺は今自分の借りてる部屋の鍵を閉め、想像力が乏しかった原因の、桜舞い散る通学路を歩いている。つまり人生初の一人暮らしという物を経験しているのだ。  しかも、今日は高校の入学式。新品の制服に身を包んで、高校デビューだ!どうだ?初だろう?君が俺の立場だったら、テンション上がりまくりだろう?  ……まあ俺を知る奴から言わせれば、一人暮らしって言ったって実家から自転車で十五分くらいだから、いつでも帰れるし、高校だって地元だから新鮮味が欠けている。ほら、今すれ違ったのだって、吉川のじいさんだ。  俺は思わず足を止めた。  ……やべえ、テンション下がってきた。何かさっきまでの温かい春の風景が、秋のような荒んだ風景に見える……
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1054人が本棚に入れています
本棚に追加