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「……ん?」
外回り中、たまに立ち寄る公園が何やら騒がしい。
いつもはあまり人影がなく、仕事をさぼるにはうってつけの場所なのだが、今日は遠目に見ても人垣ができている。
「何かあったか……いや、やめとこう。面倒なことには関わりたくないしな」
田坂はここのところ、かなり疲れを感じていた。
商品開発部から営業部に異動を命じられて三ヶ月。慣れない外回りに加え、今年の記録的な暑さは初秋を迎えても一向に収まらない。
流れ出る汗を拭いながら、ネクタイを少し緩める。
首元から熱い空気が入り込み、ますます不快指数が上昇する。
今日は公園の木陰で一息つく訳にはいかない。
「ふう……」
溜息を一つ吐き、下を向いてとぼとぼと歩く。
そこから徒歩で20分ほどの会社へ帰る途中、不意に冷たい風が一筋、田坂の目の前を通り過ぎた――気がした。
はっとして顔を上げると、左手に古びた家が見えた。
強い日差しを手で遮りよく見てみると、駄菓子屋の看板が小さく掲げられている。
半分だけ開けられた戸口から除く店内は薄暗く、並べられているはずの商品さえも見えない。
「……こんなところに駄菓子屋なんてあったっけ」
毎日とまではいかないが、よく通るこの道。あれば今まで気づかないはずは無いが、新しく建てられたとは到底思えない。
「ちょっと調べて、明日にでも行ってみるか」
田坂は鞄を左手に持ち替えて、少しだけ軽い足取りで会社へと向かった。
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