第三話  未来へ

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「帰りました」  部屋の入り口で一声かけ、自分の机へ向かう。  程よく冷えた室内は、外から帰ってきた田坂には冷えすぎているくらいだ。 「お疲れ様でした。外は暑かったでしょ」  派遣社員の美佳が、冷たいコーヒーを差し出した。 「ああ、ありがとう。暑いなんてもんじゃなかったよ。ここは天国だな」 「汗が冷えて、風邪ひかないように気をつけてくださいね」  にこりと微笑んで、盆を手に給湯室へと消える美佳の背中を眺めていると、前から 「田坂君」 と太い声で呼ばれ、急いで振り向いた。 「は……はい!」 「今日はどうだった?」  以前、今の田坂の席に座り、同じように営業に走り回っていた東野は、彼のことを気にかけていた。 「あ……はい、今日も新規は取れなくて……」 「そうか。ま、焦らなくてもそのうち取れるだろう。まだ三ヶ月だし、既存の顧客に顔を売っておくのも大事な仕事だ」  そう言われても、この三ヶ月で一件も新規契約を取れていない田坂は、内心かなり焦っていた。  文房具を納めるこの会社は、取引先がある程度限定されるため、新規開拓は難しい。  それでも東野は、何件もの新規店舗との契約に成功し、最年少で課長に昇進している。  なんとも言えない気持ちを抑えつつ、業務日報を打ち込んでいるとき、ふと気になっていたことを思い出した。 「課長……あの、ちょっといいですか?」  向かいの東野に声をかける。 「なんだ?」 「あの公園、知ってますか? ここからちょっと行ったとこにある……」 「ああ。あの、木陰のベンチの公園な。俺もよく行ってた」 「あ……課長も。いや、それで、その公園の近くに駄菓子屋があって。オンボロの」  課長は手を休めて、田坂の顔をじっと見つめた。 「……駄菓子屋? そんなのあったか?」 「自分も今日、初めて気がついたんです。結構通るのに今まで気がつかなくて」 「駄菓子屋……」  東野は顎に手を当てて、呟いた。 「はい。明日行ってみようと思うんですけど……どうでしょうか」 「駄菓子屋で文房具を置いているところは少なくない。もしかしたら新規取れるかも知れないが――」  そこまで言って、東野は腕を組み天井を仰いだ。
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